アンドロイドラヴァー

アンドロイドラヴァー -第十三話目-

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職員室の隣室。そこは校長室という一室である。
その名の通り、普段は校長のみ存在する場所で、生徒は特例以外,入室禁止とされている場所だ。
その校長室の中からは二つの声が聞こえてくる。
その声の主は、玲司と校長の二人の声だった。
どうやらこの二人、内容は分からないが何か言い争っているようだ。
荒々しく声が張り上げられている。
「夏希、また来ますので。その時は宜しくお願いしますね?」
「それは断じて許可せん!これ以上アンドロイドを連れ込むのは止めてくれ!」
迷惑だ!と怒鳴り散らす校長は、机をダンッと両手拳で叩き付ける。
どうやら夏希の学校登校を認めるつもりはないらしい。
「これだけ懇願しても駄目ですか?なぜです?」
「生徒を含め,先生方や私が気味悪く思うからに決まっているだろうっ!」
それでなくても、神野 奈帆というアンドロイドを通わせてやっているというのに・・・。
そう付け足す校長は、はぁ・・・と大きな溜息を吐いて玲司を睨み付ける。
もう諦めてくれと訴えているようにも見える。
「・・・一度転入してきた生徒をよく追い出せますね?元教え子でしょう?信じられませんね・・・。」
玲司は呆れた溜息を大きく吐き、睨み付けてくる校長に睨み返す。
・・転入した当時…アンドロイドを知らなかった時は、デレデレと鼻の下を伸ばし、どうぞどうぞ!と難無く言ってくれたんだけどな・・。
事実を知った瞬間、人間とは こうも簡単に変わってしまうものなのかと改めて実感する。
確かに、事実を隠して転入させたのは悪かったかもしれないが・・・この男には理解し合うというものがないのか?
玲司は、目の前にいる“校長”という人間に苛立ちを覚える。
「何がアンドロイドだ!あんな役立たず・・・ッ!何処かへ捨ててしまえ!不必要だッ!」
「・・・アンドロイドが不必要?役立たず・・?」
校長の放つ言葉、それは、アンドロイドを発明した自分を否定されたかのように思えた玲司。
苛立ちというものでは収まらず、怒りと軽蔑感を抱き始める。
「なんだ?本当のことだろう?あんなモノいらな・・・」
「役立たず・・役立たずねぇ・・・。確かに、行動力があって働き者だとか、頭が特別優れているわけではないね。」
「よく分かってるじゃないか!なら・・」
次の言葉を発そうとした校長の言葉を遮り、玲司は机に両手拳を叩きつけて校長に問いただす。
「アンドロイド・・・それは、人間とあまり変わらないと思いませんか?」
「どこがだッ?ふざけた事を言ってるんじゃない!全てにおいて違うじゃないか!」
「では、なぜそう思います?人間、皆 頭が優れていますか?皆 行動力があり、完璧なのですか?」
違うでしょう?と続ける玲司の言葉は、校長の心にズキッと響く。
反論しようとした校長だったが、喉の奥底で言葉は詰まり、「それは・・・」と言葉を濁らしていた。
「人間、皆 様々な性格を持ち、様々な感情を持っている。決して同じ人間・・完璧な人間は居ない。」
「それは・・確かにそうだが・・・。だがッ・・!」
「クローンでない限り、同じ人間なんて存在しない。あの子達アンドロイドは感情を持ち合わせている。」
その辺にいる人間と変わらない・・・。そう 強く断言した玲司。
校長は、どんな言葉を返せば良いのか,どのように反論したら良いのか・・そればかりが脳裏を駆け巡っていた。
「アンドロイド・・・彼、彼女らは,いずれ必要になる日が来る・・。」
「・・?それは一体どういう意味だ・・・?」
「それは・・・―――――――」
玲司は、頑固な考えを持つ校長に、なぜアンドロイドが必要なのか、なぜ自分は造り出したのか。
それを全て、納得するまで説明し続けた・・・・・・・。


***



翌日。和夜のクラス,3年A組の男女全員、目を大きく見開き,シーンと静まり沈黙する。
ガラガラッと音を立てて扉が開き、先生と ある人物が教室へと入ってきた。
皆、自分の席に無言で座り、軽蔑と拒絶の視線を 教室に入ってきた ある人物へと注ぐ。
「はい皆さん、お早う御座います。今日から再登校となりました“神野 夏希さん”です。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
ある人物・・それは夏希のことだった。
先生は、やっぱりね・・・と,このようになることを予想していたため、ふぅ・・・と一息つく。
和夜たち以外、誰もが偏見を持ち、軽蔑と拒絶の視線を向けて 無言で睨みつけている。
このような状況で自己紹介なんてやっても意味は無いと思った先生は、夏希の方へ向き直り、座る席を指定しようと口を開いたその時。
「やはり皆さんは、アンドロイドというものに偏見を持っている。そして、軽蔑している。」
何を言い出すのかと、目を大きく見開いて驚愕する。全員、あまりにも分かりやすい表情を浮かべて呆気に取られていた。
「確かに、貴方達から見れば・・アンドロイドは気味の悪いモノだとしか認識していないと思う。」
「・・・だったらもう来んじゃねぇよ・・。」
ボソッと誰かの一言で、周りの人々は賛成し「そうだ!そうだ!出て行け!」などとヤジを飛ばす。
その言葉は、しっかりと夏希の耳にも入っているだろう。
だが、その言葉に動揺せず、ただただ語り続ける。
誰が何と言おうと、今の夏希には無関係・・といった感じだ。
「貴方達が知っての通り、私と奈帆はアンドロイド。今はまだ感情が無いと言っても過言じゃないでしょう。知らぬ内に、酷いことを言ってしまっているかもしれません。」
「分かってるなら、さっさと出て行・・・」
「ですがそれは、貴方達と同じ。感情や情緒、幼い頃は知らなかったでしょう・・?貴方達にある学習能力、それは私たちにもあります。」
だから何なんだッ?と叫ぶ輩が数人 席を立つ。
まるで抗議を聞いているかのようだ。
互いの意見がぶつかり合って、交じり合う。
それの繰り返し。だが、その抗議にも いつか互いの意見が交じり合って、溶け合う時が来る。
そう信じて夏希は必死に語る。ただ、それだけを行う。
「その感情や情緒・・・私たちは、とても知りたい。・・貴方達から、知識を得たいと・・・・そう思っています。」
「そんなの・・偽善の言葉に過ぎないわ!アンドロイドに学習能力なんて・・・」
「いや・・・ある。」
一人の女子が 夏希に抗議を仕掛けたが、それを遮って言葉を発した。
夏希を含め、全員がその人物へと視線を向け,皆 驚きの表情を浮かべている。
「和夜・・お前、何言ってんだよッ?」
「俺は、今まで篠宮や神野と付き合ってきた。他の皆よりも、傍に居る事が多かったと思う。」
和夜は、しんみりとしている雰囲気の中で語る。
本当のことを・・自分の思っている考えを。
「だから分かる・・・。篠宮や神野というアンドロイドにも、学習能力があるということ・・。」
シンと静まり返る教室は、誰も反論できないほど、和夜の言葉はグッと心に染み渡る。
「・・どうか、拒絶しないで。貴方達と違う部分は沢山あるかもしれない。でも、それを理解し呑み込んで欲しい。」
夏希は、皆に理解してもらいたくて、和夜の言葉に続けて語った。
これは、決して無駄ではないと・・そう信じて。
「・・・お前らには、自制心というものがあるのか?」
もし、自己制御できないなら・・・。
そう、一人の男子が不安そうに口にする。
だがこれは、一番,最も皆が心配している事だと思われる。
もし、人間を殺すような危険物質ならどうすれば良いのか?と、皆 同じことを思っているのだろう。
「それは問題ない・・と、僕が断言するよ。」
「!?」
思いがけない人物の言葉、それは和夜のとき以上に驚愕する男女達。
「僕は、無感情の兵器に殺されかけました。信じられないと思うかもしれないけど、実際それは、無感情の人造人間だった。」
そう切実に語るのは、萱だった。
無感情・・・感情さえあれば、自制心は自然と生まれてくるもの。
そう口にする萱の言葉は、皆の心を和らげた。
安堵した・・・という言葉が一番合っているのかもしれない。
「自制心はあります。まだ僅かにしかないけれど、感情・情緒が私たちにはある。人造人間でもロボットでもない・・・アンドロイドだから・・。」
拒絶・・・軽蔑しないで・・皆 私たちのことを理解して、認めてほしい・・・。
その願いは、クラス内全員,そして 先生までも伝わった。
皆の心に、理解する という言葉が届いたのだ。
「そうだよね・・・。最初は皆・・分からないことだらけだよね・・。」
皆は,確かにそうだ と、少しずつ理解していく。
むしろ、人間だって分からないことが沢山あるじゃないかと、そこまで理解をし始めた。
そう思って、初めて気付く。
アンドロイドは、人間と大差変わりない と。
夏希が、理解してくれたことに感動し、有難う・・・本当に有難う・・・と頭を深く下げ、礼をした。
先生と、クラス全員の男女たちから、歓声と拍手が溢れ出た。
素晴らしい演説を聞いたときのような・・・そんな感じさえある。
それから奈帆と夏希は、皆と付き合いを高め、一人の“人”として認められたのである。


***



アンドロイドという存在。初めは拒絶され、軽蔑感,嫌悪感,偏見さえ持っていた先生と生徒達。
3年A組だけではなく、他のクラスや他学年、先生達全員に受け入れてもらうことが出来た。
最初に比べれば,かなりの進歩と言えるだろう。
今では、理解を深めようという程まで認めてくれている。
そんな奈帆たちが通う学校では、色恋沙汰も耳に入るようになった。
騒がしい校舎内。それは、喜びに満ち溢れた声。
誰もが聞いても、表情をほころばせるような話しか聞こえない。
噂話や、人の嫌味を言う人は居なくなったということだ。
屋上やグラウンドなど、男女カップルが何組も見かけるようになった。
これは・・・何かに影響された所為なのだろうか?
「萱〜!お待たせ〜〜♪」
「あ、奈帆!こっちこっち〜!」
お昼時,裏庭にて。
弁当を二つ持っている萱が、奈帆の声に気付いて手招きしている。
奈帆は、萱の方へと走り寄っていく。
「遅くなっちゃった・・・ごめんね・・。」
「待ってないから大丈夫だよ。それより・・・・ハイ、お弁当。」
萱が両手に持っていた二つの弁当、その内の一つを奈帆の掌へと渡した。
奈帆はもちろん大喜び。その場でジャンプをしていた。
どうやら萱は、奈帆のためにお弁当を作ってきたようだ。
いつもは和夜が作っているのだが、この頃は萱が持ってきてくれている。
裏庭、もう季節は冬間近なのだが、とても日差しが暖かく感じる。
萱と奈帆、二人寄り添いお弁当を食べ合う。
奈帆と勉が一緒に弁当を食べていた時とは全く違う雰囲気。
堅苦しくなく、とても穏やかで和む雰囲気が漂う。
萱と奈帆、彼氏彼女という関係へと進んだのだった・・・・・・・・・・。


「別に悲しくはないけど、一人だけ置いてかれた気分はイヤ。」
校舎内,3年A組 教室にて。
夏希がボソッとそんなことを言っていた。
「別に置いていったわけじゃないよ?そんなこと言うなら、誰か捕まえてくれば良いでしょ?」
「イヤね・・・幸せだからって調子に乗る人は。」
「なんですってッ?」
そんな夏希の会話に首を突っ込むのは静香だった。
ムッと頬を膨らまして、静香から視線を逸らす夏希。
静香は夏希に向かって暴言を吐いていた。
「夏希・・そんなに彼氏が欲しいなら、他の男子を彼氏にすることが出来るだろ?」
「欲しいなんて言ってない。ただ、萱と奈帆,和夜と静香が彼氏彼女という関係になって、私は一人,取り残された気がしてイヤなだけ。」
誰も欲しいなんて言ってない,と何度も繰り返す夏希。
「何度も同じこと言ってると・・・まるで“本当は欲しくて仕方がない”って言ってるみたいだよ?」
「ッ・・・!」
夏希は、静香の背中をポカポカと叩いていた。
顔を真っ赤にしている夏希を見て、痛い痛いと言いつつも 静香は大爆笑。
笑い過ぎた静香の目尻からは、涙がホロホロと零れ落ちる。
夏希は、自分が背中を叩いた所為で泣いてしまったのかと勘違いし、急に叩く手を止めて“大丈夫?”と心配の声をかける。
どうやら夏希は、笑い過ぎると涙が出るということを知らないらしい。
「ふふっ・・・この涙はね・・笑い過ぎて出た涙だから、痛くて泣いてるわけじゃないんだよ・・?」
「え・・笑い過ぎてって・・・・。・・ッ!騙したッ?」
嫌味ったらしい言葉を放つ静香だが、これは夏希に,知識として放った言葉。
それを理解してくれる夏希かどうかは分からないが。
このように、日常的なところから知識を得ていく。
これは、アンドロイドも人間も同じこと。
それが、この学校内だけではなく、世界中の人に理解してもらえる日が来ることを・・・・・
奈帆や夏希、そして・・高性能アンドロイド発明者が望んでいる・・・。
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