アンドロイドラヴァー

アンドロイドラヴァー 最終章 『未来への期待』 -最終話-

モドル | モクジ
普段、生徒達が集まる教室とは離れた一室。
看板には『生徒会室』と書かれている。
生徒達全員は、場所は知っていても入ったことがない,という人がほとんどだろう。
特に用が無い限りは 入る事がない場所。
校長室とは違って、関係者以外立ち入り禁止,というわけではない。
“聖なる領域”と思っている人が多数存在する。
そう思っている人が多い所為か、どうも入りにくいようだ。
決してそんな場所ではないのだが。
生徒会室の室内は、校長室よりも広く豪華だ。
ドアを開ければ、まず歩くべき道に赤い布が敷かれている。
そこを真っ直ぐ歩いていけば、大きく立派な机の前・・つまり、生徒会長と御対面することが出来るのだ。
その大きく立派な机の上には三つのティーカップが置かれていた。
椅子に堂々と腰掛けているのは生徒会長・・のはずだが、そこには別の人物が座っていた。
「上手く行ったね〜?この大きな計画♪この調子なら、不安要素は無に等しいね。」
「不安要素なんてものがあったら たまったもんじゃない・・。」
確かにそうだね,と笑い声が室内に響く。
椅子に腰掛けているのは・・高性能型アンドロイド発明者、鳥羽 玲司だった。
玲司と話を交わしているのは、皐月野 海麻だった。
玲司は、ティーカップに手をかけ,紅茶を一口飲んだ。
「修理する時・・・何か夏希に細工しただろう?」
「おや?よく分かったね?」
フッと微笑む玲司は、海麻が意外なことを言ってきたので少し驚いている。
「・・とは言っても、知識を少しあげただけ・・・つまり,入れ知恵ってやつだね。」
「細工したわけじゃないのか?」
「正確に言うと・・細工したわけじゃない,と言えるだろうね。」
コトッ・・・と,玲司は机にティーカップを置き、真剣に 且つ切実に語りだす。
「僕は“ドール”を作りたいんじゃない・・。感情と情緒を持ち合わせた“高性能型アンドロイド”を作りたいんだよ。」
ドール・・・人形というモノを作ったところで、何も変わりなどしない。
玲司の思いは、海麻にもよく分かる。だから協力したのだ。
「それにしても、皆を納得させ、心をひっくり返したあの夏希の言葉・・前の夏希だったら、あんなことは到底言わないだろうな。」
「あんなことなんて酷いね?天才の考えた名言と言ってほしいな?」
「確かに玲司は天才だな・・。この学校だけで、奈帆と夏希と・・もう一人,アンドロイドを作った張本人だしな?」
冗談気に軽く言った玲司だったが、海麻はそれを本気で受け取ってしまったらしい。
簡単に肯定されてしまうと、なぜか“自分が天才だ”と言った玲司本人は恥ずかしく思えてくる。
海麻なら否定するだろうと思っていたのだが・・どうやら今回は素直に肯定されてしまった。
「奈帆と夏希ともう一人・・・皆、この学校の生徒会長がアンドロイドだったって知ったら・・・どうするんだろう?」
「驚きはするだろうが・・・もう軽蔑だの何だのという騒ぎはないだろう?」
「それも、校長先生とやらに 僕らの計画を話した甲斐があったってことだろうね?」
満面の笑みを浮かべ、最後の一口を飲み干した玲司は,視線を 外に広がる真っ青な空へ移した。
海麻は、飲み終わったティーカップを片しながら口を開いた。
「少子化、高齢社会と言われている今、この状態で未来へ進むのは非常に難しい。そこで俺らは、集中的にアンドロイドの製作に時間を費やした。
そして、沢山のアンドロイド,若者中心のアンドロイドを作った。」
「それも、人間と同じように子をつくり、子孫を残せる高性能型アンドロイドな?」
海麻の言葉を繋げるように言った玲司は、海麻に向かってニコニコと微笑んだ。
ここまで随分と時間を費やしてきた。
それは、決して無駄な行いではなかったと、今改めて気付く。
「そうだな・・。お前は不老不死というわけじゃない。普通のアンドロイドを作っても,子孫を残せないんじゃ意味がないしな・・。」
「僕が不老不死で、アンドロイドを作り続けることが出来るっていうなら、子孫を残せない普通のアンドロイドを作るよ。」
高性能型アンドロイドは、普通のアンドロイドよりも何十倍もの時間と疲労が費やされる。
もし僕が不老不死だったら良かったのかな・・?
そう呟く玲司に、馬鹿か?と海麻は 呆れつつも苦笑した。


この御時世、少子化と高齢社会という問題に悩んでいる。
子孫が居なければ、次世代へと続くことが出来ず,人間は滅び 果ててしまうことだろう。
子孫が居ない代わりに、今現在 多く存在するのは“お年寄り”という老人の割合が多いとされる。
子を産むという女性が急激に減少しているため、華々しい次世代は望めない。
それを阻止するため、大規模なプロジェクト『高性能型アンドロイド製作』という案を出した鳥羽 玲司。
人間が出来ないというなら、アンドロイドにお頼み申そう。と、皐月野 海麻と共に活動した この大プロジェクト。
高性能型アンドロイド。今はまだ感情や情緒という部分が欠けている為、それを,今生きる人間から得ようと学校に通わせた。
それが、篠宮 奈帆と神野 夏希,そして雨 壮吾という三人の アンドロイド達。
この三人を基点とし、だんだんと高性能型アンドロイドを増やしていこうと考える玲司。
まだ、草稜中学校という 一つの場所にしか認められていないが、これが世界中に広がることをこいねがう。
世界中の人々が、強制的にではなく,自ら頷き 認めてくれるということを信じて。
次世代という未来を思い描き、平和な日々を送れることを 希う・・・―――。


アンドロイドと人間と。全てが調和されるとは言い難いが、今後の未来に期待しているのは・・・言うまでもない。




アンドロイドラヴァー  …*END*…



※本作品はフィクションです。
高性能型アンドロイドが、少子化・高齢社会を救い,
未来を保障する…というのは全くのフィクションですので、御了承下さい。
モドル | モクジ
Copyright (c) 2006 時雨 彬久 All rights reserved.
 

-Powered by HTML DWARF-

inserted by FC2 system