アンドロイドラヴァー

アンドロイドラヴァー 第二章『真実を知った恐怖と不安』 -第九話目-

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いつもと変わることのない風景、そしてこの騒がしさ。
同じことの繰り返しなのではないかと思えてくる学校生活。
今日もまた、一昨日・昨日と同じような一日を迎える。
・・それは、ある人物を除いては の話しだ。
和夜の幼馴染であり親友でもある人物、相場 萱。
あれから一週間も経っているというにも関わらず、一向に元気が湧いてきていないようだ。
“あれから”というのは、萱の作った機械兵が、作った本人,
萱自身を殺そうと動いたという、あの話である。
確かに、現実では有り得ないことが起こった所為もあり、
衝撃は大きかったかもしれないが・・既に一週間も経っている。
それでもまだ何か不安を感じているらしく、前のようなテンションは全くない。
昨日と同じように、自分の席に座って,時計の秒針をひたすら見続ける。
今日という時が過ぎていくのを心待ちにしているかのようにも見えるその行為、これも一週間続いている。
「萱・・・大丈夫かな・・?」
「大丈夫・・とは言えないだろうな・・・。」
「・・・だよね・・。」
和夜と夏希の2人は、萱を見て素っ気無い会話を交わしていた。
「・・貝塚に・・・話しても良いか?奈帆と夏希のこと。」
「一週間前、海麻が萱に話した内容を全て・・・ということ?」
軽く首を縦に動かして頷く和夜。
無言ではあったが、真剣に話しをしているという雰囲気だ。
「和夜〜!静香ちゃん、屋上に行く階段に待っててもらったよぉ〜!」
バタバタとあわただしく教室に駆け込んできた奈帆は、やるべきことをやったという達成感から満面の笑みが零れていた。
「・・・準備は完了済み・・ってことなのね・・・・。」
「あぁ・・。結構要領が良いだろ?」
人を使っておきながら要領が良い・・とは言い難いのではないか?
と思う夏希だったが、何も言わずに流した。
しょうがないなと言うように、はぁ・・・と溜息を漏らす夏希は、
静香ちゃんに宜しく言っておいてと一言,和夜へ伝えた。
それを聞いた和夜は、貝塚の待っている屋上へ行く階段へと駆け走っていった・・。






もうすぐで予鈴が鳴ってしまうだろうという時間。
淡々と、且つ分かり易く伝えようと努力する和夜は、貝塚と向き合う格好になった。
「・・萱にはもう話したことなんだけどさ・・・。」
「?来て早々、何の話??」
私は奈帆ちゃんに待ってて欲しいと言われて待ってたんだけど・・?
と、いつもより不機嫌口調で話す貝塚は、なぜ和夜がここに居るんだ?など・・・質問攻めされた。
それを何とか押し切って、伝えるべきことを短時間で伝えようと貝塚の話し(文句)を遮った。
「実は――…・・・・・・・」
淡々と話を進めていく事が出来た和夜は、アンドロイドのこと・奈帆と夏希のことを全て話した。
萱は愕然として無言で俯いてしまったが、
貝塚は逆に,にっこりと柔らかく微笑み、全てのことを理解した。
「そうだったんだー・・。へぇ〜・・・そっかぁ・・。」
納得する言葉を発する貝塚だが、おそらくこれは、貝塚なりに驚いているという行為なのだろう。
さっきから“そうだったのね〜”や“ふむふむ・・そういうことね”という同じような言葉しか出てきていない。
「宜しく言っておいてくれって。・・じゃ、もう予鈴鳴りそうだから戻ろうぜ?」
「う・・うん・・・・!」
短時間で、よくここまで話す事が出来たな・・・と、和夜は自分に驚いていた。
話す事が出来て良かったと安堵し、貝塚と共に急いで教室へと走っていった・・・。






1日1日、時間が過ぎるのは早いなと改めて思う。
現時刻は既に12時を回り、お昼時である。和夜は今日も裏庭へと足を運ぶことにした。
前は桃色のコスモスだけだったが、今日からは世にも珍しい黄色のコスモスが見られるという。
黄色いコスモスは、採種という作業を何回となく繰り返し、30年をかけてやっと固定育成したものなんだと、用務員さんは熱く語っていた。
世にも珍しいと聞くと、とても見たくなるというのが人間のさがだろうと自分に言い聞かせながら裏庭へ行く和夜。
その裏庭へ行く途中、とても不自然な仕草を見せた人物を見た。
その人物と会話を交わしているのは奈帆だった。その人物とは・・・和夜の親友,萱である。
おそらく長い付き合いをしていない限り、その不自然な仕草は気付かないだろうというようなものだ。
またしても和夜は、不謹慎極まりないと思いつつも、2人に見えない柱の影に隠れて会話を立ち聞きした。
「明日,私の家に来ない?遊びにおいでよ〜・・ね?」
「・・・・。」
「そんな暗い顔してたら・・・良くないよ・・?」
会話を交わしている・・・・・・・とは言い難い状況だ。
相手が無言で何も反応がないというのは、独り言を言っているといった方が正しいのかもしれない。
あれだけ沈みきってしまっているので、あまり人と話したくないというのは分かる。
だが、どんなことがあろうと、萱は誰とでも会話を交わす奴だ。
それは和夜が長年付き合ってきて分かることだ。間違いはない。
確かに、作り笑いや堅苦しい笑みなど、表情には出やすい奴だが、これほどまで相手を拒絶することはなかった。
それが、とても不自然な仕草である。
他の人から見れば、ショックの所為で話したくないんだろうという程度しか考えていないだろう。
これが不自然な仕草だということに気付くのは・・おそらく無い。
「あっ・・・萱・・・・・・・・。」
スッと奈帆の目の前を無言で通り過ぎた萱は、表情一つ変えずに去って行った。
萱に気を遣ったつもりで話しかけた奈帆だったが、逆に気を悪くしてしまったようだ。
「・・・。」
柱の影から見ていた和夜は、萱を見送った後、静かにその場を立ち去り,裏庭へと足を進めた・・・。






裏庭には、本当に黄色いコスモスが咲き開いていた。
もちろん、一般的な桃色のコスモスの方が多かったが。
とても美しい裏庭で弁当を食べられるのは幸せだと、つくづく思う。
弁当を食べ終わって、教室へ戻る最中,いつも花が綺麗だったなどと思いながら戻る和夜。
そんな貴重なものを見れて良かったと、頭の中に 良い思い出として刻みつけて 教室に入った。
萱や貝塚、夏希、奈帆がいるかどうか一通り教室内をぐるりと見回した。
和夜の視界にフッと入り込んだのは、貝塚と萱が楽しそうに・・・ではないが、何か話し合っていた。
やはり貝塚が相手でも、気楽に話せない部分もあることを和夜は知った。
和夜に気付いた貝塚は手招きし、会話に混ぜようとしてきた。
萱も、和夜が話しに混ざるのは嫌ではないようだ。
和夜は2人の所へ行き、話しに加わった。
楽し気な表情をしない萱だが、嫌々話している様子はない。
奈帆と話しているときの・・・あの時のは気のせいだったのだろうか?
こんなにも話している様子を見ると、無言で去って行くような感じは全くしない。
「・・・和夜?どうかしたの?」
「・・え?あ・・・何でもない・・。」
心配しているのか、萱は和夜に不安気な雰囲気で話しかけてきた。
曖昧な応答をしてしまった和夜に、萱は悲しい表情を向けていた。
「ね・・ねぇ?トイレ行かない?」
「・・・は?」
貝塚は唐突なことを萱と和夜に言って来た。
確かにこの雰囲気を打ち壊したいと思う気持ちは分かるが・・・
トイレに行こうなど、言えたもんじゃない。
よく女子は、複数でトイレに行きたがる。
だからと言って、男子をトイレに誘うというのは・・・前代未聞ではないだろうか・・?
「別に和夜はどっちでも良いよっ!・・・萱は行くよね?」
「え・・・うん・・別にどっちでも良いけど・・。」
「じゃぁ決まり。行こっ!萱!」
萱の手首を無理矢理取って、ズカズカとトイレの方へと歩いて行った。
さっきの雰囲気は上手く・・かどうか分からないが、打ち壊れたことに変わりはない。
女子の特権・・というものに助けられたという感じがする。
男の和夜がトイレに行こうと、萱を誘うのは良いにせよ,貝塚という女子を誘うのは・・・あまりにも無理があるだろう。
密かに貝塚へ感謝する和夜は、萱たちと入れ替わるかのように入ってきた奈帆と話し合うこととなった・・・。

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