アンドロイドラヴァー

アンドロイドラヴァー -第八話目-

モドル | ススム | モクジ
「いらっしゃいませ〜♪当店は、舌が蕩ける様な絶品ばかりを揃えております!是非ご来店下さいませ〜」
「品数も豊富で飽きが来ないというのが当店の見せ所!どうぞ貴方の味覚でお確かめ下さい!」
この声は・・奈帆と神野?あの2人というのはコイツらのことなのか・・?
随分と説得力のある呼びかけだと思ったが、よくよく聞けば奈帆と神野の声だ。
人と人の間をすり抜けて、やっと教室内から出たが・・・
「あ!和夜〜お疲れーッス♪」
「高野くん?あ、お疲れさま。・・・どうしたの?」
「な・・なんだそりゃ・・・・?」
一瞬、どこの国から来ましたか?と聞きそうになった。
今まで見てきた衣装の中で、一番印象的な物かもしれない・・・。
「これ,お姫様衣装って言うんだって〜。初めて着たから新鮮な気分〜♪」
「私も初めて着た。こんなに可愛い服があるなんて・・・世の中わからないことだらけ。」
「その服を着てるお前らがわからない・・。」
和夜は 酷い言い方をするねと、奈帆と夏希に言われたが・・・なぜ手芸部はこんな服を作ったのか。
根本的に、そこからわからない。
和夜は見なかったことにしようと、奈帆と神野を冷めた目で見つつ,その場を去った。
頑張れよ・・と本当は一言いっておきたかったが・・・言う気が失せきってしまったので呆気なく止めた。
展示品や劇,吹奏楽の演奏などを聴いたりして、室内を出た。
曖昧な記憶でしかないが、確か外はバザーがやっていた筈だと信じてグラウンドの方へ歩みを進める。
グラウンドを見渡す和夜。
ここの学校のグラウンドは結構広かったと思ったが、テントを一面に敷き詰めると・・・案外それは気のせいだったようだと思える。
バザーの方も、人の出入りが激しく良い感じだ。この文化祭で儲けたお金は、募金として寄付される。なんて親切な学校なんだろうか。
しみじみと、そんなことを考えながら歩いていた和夜の目に止まった,あるテントを発見。
妙に気になったので、そのテントに寄ってみた。
「・・骨董屋・・・・?」
唐草からくさの模様をした、昔ながらの風呂敷の上に乗せられた骨董品。
数は・・それほどないが、どれも年代物という雰囲気を持っている。さすがは骨董屋だ。
「君・・・骨董品に興味が?」
「え・・・?あ・・少し気になったので、寄ってみただけなんですが・・・。」
そうかそうかと頷きながら答えるお爺さん。
「・・・もし気に入ったモノがあったら・・・好きに持って行くがい。」
「えっ・・・・?」
お爺さんの口からは、思いがけない言葉が出てきたので一瞬呆気に取られた。
冗談だろうと思い直し、苦く微笑んで見せた。
「嘘ではないぞ・・・?ホレ、持って行け。」
「ですがコレ・・・骨董品・・・売り物なんでしょう?」
「あぁ・・・正真正銘、年代物の骨董品であり・・・商品じゃ。・・・ここに来てくれたのは、君が初めてなんじゃ。第一号の来店記念として・・・。」
掌に、得体の知れないものをギュッと握らされ、胸元に引き付ける様にして手渡された。
「受け取っておくが良い。記念じゃと言っておるだろう・・・?」
「・・・では、有難く受け取っておきます。」
なぜか骨董屋のお爺さんは、有難うよと一礼して感謝してきた。
何か貰えるというのは嬉しいが、骨董品に関しては全くわからない。
特に,今回貰ったのは何なのか・・・?全体を一通り見てみたが想像もつかない。
機械の部品のようにも見えるこの骨董品が何なのかを聞こうと、お爺さんに尋ねたが…
お爺さんも、これだけは分からないらしい…。やはりタダでくれる物というのは、ちょっとした欠陥があるわけだ。
この骨董品は丁度、手の平サイズだったのでスッとポケットに入った。
お爺さんに一言お礼を言った後、その場を去った。
今年の文化祭は、やはり俺らが3年ということもあり、一昨年よりも,去年よりも派手だったと思う。
中学生最後だから,というのもあったのかもしれない。
最後の想い出として・・・とっておきたいと思ったのかもしれない。
そんな文化祭は,空が黒く染まるまで続いた。
派手で騒がしい一大イベントは、静かに幕を閉じたのだった・・・・・・。


***



騒がしかった文化祭は無事終了。楽しんだ後にあるのは・・・片付けだ。
女子たちが時間をかけて飾った装飾品を取り、黒板に書いた文字や絵は綺麗に消し、元ある姿へ戻っていった。
昨日の文化祭は1日かけて行ったが、片付けは半日かけて行う。
あらゆる所に飾りをつけた校舎を綺麗にするには、半日という時間が必要だ。
一大イベントと呼ぶだけのことはあるなと、今になってやっと気付く。
「あっ・・・萱!今日さ、暇だったら遊ばないか?」
「和夜・・?なんだよ急に?・・んー・・・まぁ別に構わないけど。」
片付けをする人が廊下・教室と溢れ返っている。その人々の中から“相場 萱”という1人の人物を探すのは,かなりの困難である。
見つけたと思ったら、大声で叫んで呼び止めるしかない。そうでもしなければ、また出会うことが出来るか否か・・・。
恥ずかし気もなく叫んだ和夜だが、呼ばれている本人,萱は他の人の視線にぶつかり、とても恥ずかしい思いをする。
「昨日の文化祭でさ、骨董屋のお爺さんから・・・コレ、もらったんだよ。」
コレ・・・と言いながら、ポケットの中から不思議な形をした物を取り出した和夜は、萱の目の前に突き出した。
「文化祭・・・?って、学生が買い物しちゃいけないって知らな・・・」
「だから〜・・・貰ったって言っただろ?買ったんじゃない。貰ったんだ。」
「物の売買を行ったんじゃないの・・・?」
「タダなんだし・・・そんなことしたつもりはないけどな。」
さっきから萱は、この不思議な骨董品をジッと見つめている。やはり気になるようだ。
「・・・で、コレは何なの?」
「・・・萱ならわかると思ったんだけどな・・・。」
何とも曖昧な答えを言った和夜に、萱は冷めた目線を向ける。
「・・・こ、これは俺の予想なんだけどさ・・?多分コレ、何か機械の部品じゃないのかな〜・・・と思って・・。」
「だから僕に・・ってことか。」
すまん・・・と謝る和夜の頭をガシガシと掻き毟る。
「痛ッ痛いって!何すんだよッ?」
「和夜の予想、一応合ってるよってことが言いたかっただけ。」
「ってことは・・・?」
コクリと軽く頷く萱は、得意気な表情を浮かべる。
「今日、この見たこともない機械の部品を僕のプラモに取り付けてみよう。」
「おぉっ!さすが萱だな〜っ!」
つまり、この骨董品は機械の部品だったというわけだ。
見たこともないとは言っていたが、萱が機械の部品と言ったらそうなのだろう。
萱は誰よりも機械に詳しい奴だ。プラモというのはプラモデルのこと。
そのプラモを作るのも得意としている。趣味とも言えるが、特技とも十分言えるだろう。
「んじゃ、学校が終わったらすぐ萱の家に行くからな!」
「うん、了解。」
話がまとまって数cm離れると、その間に大勢の人が流れ込んできた。
人の大津波と言っても過言じゃないと思われる。
そんな人々の間を、和夜は上手く抜けて通った。
片付けは意外に早く終わり、午前中で解散となった。




学校が終わったらすぐに行く・・・という話しだったが、午前中に片付けが終わったので昼を食べることになった。
そんなわけで今は、萱の家でお昼を食べている最中だ。
和夜は約束通りに学校が終わってすぐ萱の家に来た。
お昼を食べてから来ると思っていた萱は、部屋の中を大急ぎで掃除している。
なので、和夜は暫くの間リビングにて待機。
萱が2階の一人部屋からリビングに下りて来るのを待っていた。
「っと・・・お待たせ〜。」
「・・お前、本当に要領が悪いよな〜・・・。」
ぶつぶつと愚痴を言う和夜に、ぺこぺこと頭を軽く下げて謝る萱。
和夜は、リビングのソファから立ち上がった。
萱を前にして階段を上り、萱の部屋へ入っていった。
結構時間がかかった割には・・・所々散らかっている。
一体どれだけ散らかっていた部屋なんだと思ってしまうほどだ。
「んで。早速取り掛かって良い?プラモ改造。」
「おう。って言っても、どのプラモを改造するんだ?」
見回せばプラモ、プラモ、プラモ・・・。
散らばっているのは、プラモ本体やプラモの部品・プラモを直すための機械など。
プラモを改造すると言っても、どのプラモを使うのかわからない。
「えーっと・・・・あ、これこれ!」
「・・・これって確か・・機械兵・・・・だったよな?」
「そうそう。これは第壱号機兵“なつめそう”ってプラモ。」
よく覚えてたねと、妙なところで感心されてしまった。
和夜は、単に見た目から機械兵っぽいのでそう言っただけに過ぎなかったのだが。
カチャカチャと、馴れた手つきで和夜の持ってきた骨董品,機械の部品を取り付けていく。
和夜は、ただただ呆然とその姿を見ていた。着々と取り付けられていく骨董品,機械の部品は、自然とプラモに馴染んでいた。
「・・・?」
今、機械兵の腕が・・・?
萱は何も気付かないのだろうか。和夜は、機械兵の腕が自然にピクッと動いたように見えた。
気のせいなのか?と思いながら、ジッと機械兵を見つめる。
「・・・よ〜しっ!完成した〜・・・・って和夜、どうしたの?」
「あ・・今さ、機械兵の腕が自然に動いた気がしたんだけどさ・・・?」
そんな有り得ない冗談やめてくれと、萱は和夜を見て爆笑する。
機械の部品を取り付け終わった機械兵を床に置き、完成したことを和夜に見せた萱。
満足そうに微笑む萱を見て、さっきのは気のせいだったんだな・・と安堵していたのも束の間。
床に置かれた機械兵の目に光が宿ったのを、和夜はしっかりと見ていた。
眼光が赤く光り、ギギギッ・・・と金属の擦れ合う嫌な音が部屋中に響いた。
和夜は目を大きく見開き、恐怖に怯え体全体が震え上がった。
機械兵の腕が、足が、首が、胴体が。金属が擦れ合う音は更に増し、機械兵は初めての一歩を踏み出そうとしていた。
その機械兵の動きは、先ほどと比べてだんだんスムーズになってきていた。
小刻みに震える和夜の足は、機械兵が動くたびに動かなくなっていった。
なぜ、プラモである機械兵が動くのか?
今頭に浮かぶ疑問はそれしかない。なぜ、なぜ動くのか?
和夜の異常な姿に気づいた萱は、ふと機械兵に視線を移す。
「なっ・・・な・・・何なの・・・・っ?」
萱の作った機械兵は、顔一つ分くらいの大きさだったはずだが・・・
腕や足、胴体を大きく動かす機械兵。
その動かした部分、バキバキッと何かが折れるような音が鳴っている。
何が起こっているのか、その機械兵の姿をジッと見ていた。
瞬きを一度するごとに大きくなっていく機械兵。
あっという間に和夜と萱の身長をも超し、2mは余裕であるという高さまで到達した。
天井とスレスレというような高さ。
その高さから見下してくる機械兵に殺気を感じた。
「・・・逃げなきゃ・・・・・・。」
ポツリと、恐怖に掠れた声で言った 避難しようという言葉。
そう言った本人,萱はパニック状態で、その場から動くに動けないという状況。
和夜は、萱の言った避難の言葉により我に返った。
今までにないくらいの冷静さを持ち、萱の手首を掴んで,部屋を出ようとドアへ向かう。
閉ざされたドアを思いっきり蹴って開け放ち、無我夢中というような勢いで部屋を出て階段を駆け下りる。
機械兵は、和夜が逃げたことを察知し、重い筈の金属で出来た身体を軽々と動かし、ものすごいスピードで部屋を出た。
リビングまで下りて来た和夜と萱だったが、この家は2階と1階が見渡せるつくり、つまり吹き抜けというつくりで出来た家である。
その為、2階に居る機械兵と1階に居る和夜,この2人は、しっかりとお互いの目を合わせることができる。
機械兵は、2階の廊下から1階に居る和夜達の方へ首を動かした。
和夜と目が合った瞬間、どこから取り出したのだろうか,右手に包丁が握られていた。
刃物を見た和夜は己の危機を感じ、萱を体全体で包み込むような格好を取り、サッと横へ飛びのけた。
・・・どうやらその危機感は当たっていたようだ。
先ほど機械兵が持っていた包丁が、横へ飛びのける前の,和夜が居た場所の床に突き刺さっていた。
信じられない話だが、あの機械兵は確実に和夜を殺そうとしたのだ。
床に突き刺さった包丁は、未だに突き刺さった反動で左右激しく揺れている。
それを見ると、全く生きた心地がしなかった。
一体どこに行けば安全なのか・・?そればかりが頭の中を駆け巡っていた。
機械兵は、2階から1階へ平然と飛び降りてきた。
その振動は、家全体を揺るがすほどの激しい揺れ。
音も爆音だったが、床は底抜けていなかった。
かなりのひび割れとへこみで何とかなったようだ。
だが、自分の命は・・・何とかなりそうもない。
ジリジリと歩み寄る機械兵は、腰を抜かして床にひざまずいている和夜を殺そうと、両手に包丁を構えて,今度こそは確実に殺すという雰囲気だった。
俺はどうなっても良いから・・萱だけは・・・・・。
そう思った和夜は、ぐったりと倒れこんでいる萱に覆いかぶさり、守りきろうと守備体勢をとる。
もうこの人生は終わった・・・・・そう思っていた、まさにその瞬間。
機械兵の歩み寄る方から、ものすごい大きな,崩れ落ちるような音がした。
何の音だ?と機械兵の方・・・大きな音の方を振り向くと、さっきまで包丁を持って構えていた機械兵は・・・見事にバラバラの部品化していた。
あの機械兵は、こんなにも部品が取り付けてあったのかと思えるような部品の山となっており、その山の先に立っている人影があった。
逆光の所為で一体誰なのか見えないが、その人物は,あの部品・・・和夜の貰った骨董品を手に取った。
「・・・こんなもの・・一体どこで手に入れたのやら・・・・。なぁ・・和夜?」
「っ・・・!その声・・・。」
右手に骨董品を持った人物が歩み寄り、やっと人物の顔を確認する事ができた。
「海麻・・・なんで・・・・・。」
その人物は・・なんと、海麻だった。
なぜここに居るのか。なぜ助けてくれたのか。一つの疑問が消えれば、二つの疑問が現れる。
まるでそういうかのように、疑問は次から次へと現れる。
「その話は後、だ。まずは,こっちの質問に答えてもらおうか?」
いつもの余裕で意地悪い雰囲気ではなかった。
態度も全てにおいて真剣そのもの。
ひざまずいている和夜を見下す海麻の目は、冗談という言葉が一つも無いと言えるだろう。
「・・・昨日の文化祭で出てた・・骨董屋で見つけたんだ・・・・。」
「これが骨董品として,商品として出ていたと言うのか?」
コクリと無言で深く頷く和夜は、一体それが何なのか,まるで知っているようなことをいう海麻に問いかけた。
「それ・・・一体なんなんだ?海麻は・・・それが何か知ってるのか・・?」
「何を言っているんだ・・?これを知らないわけがないだろう?・・・和夜、まさか知らずに買ったのか?」
「・・・買ったんじゃない・・。タダで貰ったんだ・・・。」
和夜の言葉に驚愕している海麻は、呆気に取られていた。
「これをタダで・・?一体どういう神経をしているんだ・・・。」
「?・・で、それ何なんだよ?」
本当に、何も知らずに貰ったのかと呆れた声で言う海麻。
知っていて当たり前というような口調だ。
萱にもわからなかった機械の部品・・・そんなもの、わかるはずないもない。
「・・これは“アンドロイドの心臓”だ。」
「・・・えっ・・・・・・ッ?」
“アンドロイドの心臓”・・・。つまりそれは、人間と同じで最も大切な部分。
生きる為に必要不可欠な内臓の一つ・・・。
「急に言われても信じられないかもしれないが、実際にこれは、アンドロイドに取り付ける心臓だ。」
「・・・やっぱり一番大切なのか・・・?」
「当然だ。」
スパッと一言で返された言葉に絶句。
なぜアンドロイドの心臓が骨董屋に・・・・?
というよりも、そんなものが売られているのか?
「それに、だ。アンドロイドの心臓は大変危険なもので、一般ルートでは売られていないはずなんだが・・・。」
「危険・・?」
「包丁で殺されそうになったというのに、あれは危険ではない・・と?」
包丁で・・・つまり、あの機械兵のことだろうか?
確かにあれは危険だと思う。
殺されそうになったのだから、確実に危ないものだろう。
だが、なぜあの機械兵の話が出てくるんだろうか・・?
「あの機械兵に、アンドロイドの心臓を取り付けただろう?」
「え・・・あ、あぁ!」
「まさか・・・アンドロイドの心臓を、こんな玩具のプラモデルに取り付けることが出来るとは大した奴だな・・。」
海麻は、手に持っていたアンドロイドの心臓を、いつも身にまとっている白衣の右ポケットにしまった。
「あのように、アンドロイドの心臓が物質に取り込まれると、あのような殺戮さつりくを楽しむバケモノと化す。」
肝に免じておけと真剣に言われ、そのことを,今日の出来事を頭に刻みつけた。
「・・他にも出回ってる可能性とか・・あるのか?」
「・・・もしかしたら、の話だ。今はそれ程気にすることはない。」
海麻の断言する言葉を聞いて、ホッと安堵した和夜は、後ろに居る萱に気付く。
「・・・今の話し・・・・・何なんですか・・・?」
「・・・・。」
恐る恐る海麻に問いかける萱は、パニック状態から,いつの間にか我に返っていたようだ。
無言で萱を見下す海麻は、話すべきかどうか見極めていた。
「・・・少年。名は?」
「萱・・・相場 萱です・・・。」
「・・・今から話すこと・・・・他言無用というなら、今抱えているお前の疑問は全て解けるが・・。」
萱は他言無用の意味を理解し、コクリと頷く。海麻は萱にアンドロイドの存在,奈帆・夏希のこと,今のこと・・・・
全てを告げた海麻は、和夜と愕然している萱を残し,この場を去っていった・・・・・。





翌日。昨日から萱に表情が消えた。
いつもは和夜の席に行って話し合ったりするのだが、今回は自分の席に座っているだけで動く気配はない。
ただただ呆然と,虚ろな目をして見ていたものは時計の秒針だった。
止まる事無く動く秒針をジッと見つめ、昨日の出来事,海麻の言っていたことを何度も何度も思い出していた。
『・・・他言無用というなら、今抱えているお前の疑問は全て解けるが・・。』
・・確かに疑問は無くなった、と思う。
だが逆に、これから先どうすれば良いのか?
という不安の暗雲が体中に取り巻かれている。
その暗雲は・・当分消えそうもないほど厚いモノだ。
これは・・本当のことなのだろうか?もしこれが嘘だったら・・?
不安は次から次へと増えていくだけで、安心というモノは決して存在しなかった。
悶々とする萱の前に、ズラッと4つの人影が現れた。
フッと我に返って、その4つの人影に目を移すと・・
そこに立っていたのは、和夜と奈帆と夏希と貝塚だった。
「どーしたんだよ?萱・・?暗い表情するなって・・な?」
「そーだよぅ・・。暗い表情してると、この先,谷底まっしぐらだよ・・・?」
心配する言葉をかける和夜と奈帆。
貝塚と夏希も心配する表情を浮かべて訴えてくる。何かあったのか?・・・と。
心配してくれているのは・・よくわかる。
だが、心配してくれているから暗雲が消え去る、ということは一切ない。
「心配は無用だよ・・・僕,何でもないし・・・。ホント、何でもないんだ・・・。」
最後の最後に、何でもないんだと念を押すところが特に痛々しい。
何でもないわけはない。誰から見ても絶対わかるであろうというほど、萱は何かに苦しんでいる。
自分で作ったプラモデル、それが作った本人を殺そうと動いたというのは・・・かなりのショックだっただろう。
おそらくそれが原因なんだろうと和夜は思う。
堅苦しい笑顔、作り笑顔を向ける萱は、皆の心配を振り払おうとしていた。
そんな笑顔を向けられては、余計に心配する・・。
不安に満ち切ったその笑顔は・・皆の心を強く刺激していた・・・・・・・。
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