アンドロイドラヴァー

アンドロイドラヴァー -第七話目-

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もう少しでススキも生えてくるだろう季節,秋。昨日は裏庭で満開のコスモスを見ながら食事を楽しんだ。
確かに楽しみながら食べれたが・・・やはりあの事を聞いた後では、
美味い筈の弁当も・・あまり美味いと思いながら食べることは出来なかった。
あの事とは、奈帆と同じく神野もアンドロイドだったということ。
他人である和夜に、自分の極秘事項を知られてしまったというショックから走り去ってしまった。
本当は今日,学校に来るのは気が引けた。顔を合わせるというのが気不味いからだ。
とは言っても、神野の方がショックを受けているのだから、相手が一番,和夜に会いたくないと思っているはずだ。
そう思っていたので、教室のドアを開けるのに苦戦していた。
そんな和夜の背後から、聞き覚えのある元気に満ち溢れた声が聞こえた。
「高野くん?教室のドア前に居たら・・・通行の邪魔だと思うけど?」
「あ・・ごめん・・・・・・って!」
声をかけてきた女の子はニッコリと微笑んでいた。
和夜はその女の子を見て絶句。
目を丸く見開いて、鞄がスルリと腕を滑って床に落ちた。
その女の子は・・・なんと神野だった。今まで思い悩んでいた主な人物、神野 夏希。
昨日とは一変し、微笑みかけてくるほど仲良くなっている。
一体どうなっているのだろうか?
「海麻から話を聞いたけど・・・高野くんは奈帆のことを知っていたって本当?」
「あぁ・・・そうだけど・・?」
和夜本人の確認が取れたということが嬉しいらしく、満面の笑みを向けて嬉しさを表現していた。
第一印象と殆ど変わらず、とても冷静な子だな・・というのが今現在の印象。
感情を表情だけで表す、といった感じだ。
「早く入ろう?もう廊下が寒くなってきた・・。」
窓は閉まっているというのにも関わらず、どこからか風が吹いてくる。
今は涼しいと言える季節だが、もう少し経てば冬になる。学校の廊下は今以上に冷え込むだろう・・・。
いつの間にか仲良くなっていた神野と共に教室内へと入っていった。
一緒に登校してきたのかっ?と、男子に言い寄られてしまったのは・・・言うまでもない。

***


この季節、大体の学校が行うであろう学校行事。
特にこの学校では、一年の中で最も栄える一大イベントだ。
演劇部は,今まで練習してきた劇をやり、美術部やイラスト部などは作品を展示する。
吹奏楽部は様々な曲を演奏し、運動部や帰宅部は,自分のクラスで飲食店を開く。
窓や壁、ドアや教室、黒板と・・・。
全校でいろいろと飾り付けをして、いつもとは違う風景へと変えていく。
そう、これは“文化祭”という,一年で最も栄える一大イベントである。
そして今は、その準備をしている。飾り付けや展示品を指定位置に置いたり。
額に汗を浮かべながらも、せっせと忙しく動く生徒達。
まさか文化祭が明日あるとは・・・全く気付かなかった。
毎年同じ日に行われているので、忘れてしまうということはないと思っていたのだが・・。
「これが文化祭なんだね〜・・あっ!あそこ、ものすごく綺麗だよ!」
「皆、丁寧に飾り付けしてるね。男子は力仕事・・か。」
おそらく忘れてしまっていたのは・・・奈帆と神野,この2人の所為だと思われる。
特に奈帆。コイツの面倒なんて見る毎日だから・・・正直いつも疲れている。
人の世話というのは重労働だと思う。介護という職業に就くというのは程遠い・・。
「こんなに面白い行事があるなら言ってくれれば良かったのに!」
「覚えてたら教えてやったよ・・でもな、今回は忘れて・・・」
「自分だけ楽しもうっていう魂胆だったんだ・・・?」
そうだったのかと奈帆は和夜に問い詰める。
もちろん、そんなことは有り得ない。
楽しむ・・・確かに当日は楽しいのかもしれないが、準備というものがどれだけ大変なのか。
そういうのがわかってないから、そういうことが言えるのだろう・・。
和夜と奈帆と夏希は、その場でボーッと突っ立っていた。
何をすれば良いのかわからない奈帆と夏希。和夜は単に面倒臭いから何もやらない。
周りは忙しそうに、物を運んだり飾ったりと目の前を次々と人が通り過ぎる。
そんな3人の前に、同じクラスの手芸部が急に集まりだした。
「奈帆ちゃん!夏希ちゃん!明日のことなんだけどー・・・」
「??」
和夜には聞こえないようにとヒソヒソ話す手芸部の人たち。
1人だけ取り残されたような感じだったが、大体手芸部が文化祭に話すことと言ったら・・・。
おそらく、というより絶対。奈帆と夏希に当日着せる衣装のことだろう。
人気のある女子を捕まえては自作の衣装を着させるという,言わば毎年恒例の手芸部軍団。
それはもう個性的な衣装ばかりで、コスプレと言っても間違っていないだろう。
普通に着るワンピースやミニスカートなど、そういう普段着ではない。
去年はフリフリのレースを付けたウェディングドレスだった。
中学生が着るには・・・相当早いだろうという衣装で、全校を圧倒させた。
今年は何を着せる気なのか・・・少し不安だったりする。色々な意味で。
手芸部たちは、やっと話しが終わったようでサッと元来た道を通って去っていった。
奈帆と神野は少々驚き気味の表情を浮かべていた。
「やっぱり衣装のことだったか・・?」
「うん・・。私たちが命を吹き込んだ衣装を着てくれるわよね?って。」
「そうか・・。」
ほぼ強制的のような言葉に聞こえるのは・・気のせいだろうか?
おそらく手芸部も必死なんだろう。
自分達の作った作品を引き立たせる為には、やはり着てくれた方が目立つ。
マネキンやトルソーに着させて飾るよりも、遥かに好感度は上だろう。
「・・・そろそろ仕事するか?もう仕上げの段階だろうし・・?」
「うん!静香ちゃんや萱とも話したいし!」
「静香ちゃん?萱?・・・誰?」
夏希はまだ転入してきたばかりなので、全然クラスの人たちの名前や顔を覚えていない。
奈帆は、貝塚と萱は親友だということを夏希に話し、2人を探すことにした。
仕事は・・一切することなく準備は終わった・・・。



準備は一切やることなく終わってしまったが、今年も派手派手な文化祭が始まった。
学校行事とは思えないくらいの騒ぎよう。
とは言っても、まだ近所の人などのお客は入っていない。
現時刻は7時20分。お客が入る時間は9時。まだまだ時間はある。
展示物の方は、昨日飾って準備万端。当日忙しいのは飲食店、つまり今度は和夜たちが忙しくなるのだ。
それを知っている和夜は、昨日の前日準備には参加しなかった。
和夜はエプロンを身に付け、バンダナを頭・・・ではなく、首に巻く。
エセコックという名が相応しい格好だ。
身支度を済ませ、次はお客に出す料理を作り始める。
和夜のクラスは、主食として焼きそば・おにぎり・お好み焼き。
副菜としてお味噌汁と漬物のセット。飲み物は珈琲・紅茶・緑茶・ジュース類など多種多彩。
他のクラスに比べて、断然品数が多い。
それは、なぜかこのクラスは料理部の人たちが多いからだ。
和夜は・・朝の準備に必要な助っ人。
材料を切ったり、調味料を準備したり、料理を作ったり・・。
朝は最初の準備から取り掛かるので一番忙しい。
家事の得意な和夜には安心して任せられる仕事である。
和夜が淡々と料理している姿,奈帆は毎朝見ている光景なので、やっぱり手先が器用だねと話しながら見ている。
夏希は初めて見る光景だったので、意外な一面を持っているんだね・・と羨ましそうに見ていた。
和夜は作るのに夢中で、奈帆と夏希は,手芸部の作った衣装に着替えたりして、9時という時間を待った・・・・。



先生が2人。校門の前で、腕時計の秒針を見つめてジャスト9時というところで校門を開けた。
デパートのバーゲンセールにでも来ているのかと思う程の人数。
開けた途端に流れるかの如く入ってきた人、人、人。
もう既に9時前から並んで待っているなんてことが有り得るだろうか。しかも中学校の文化祭で。
これだけのお客が来るということもあって、この学校は派手な文化祭へと進化したのだろう。
言ってしまえば・・・もはや商売である。
「いらっしゃいませ〜ッ!ここの焼きそば、食べたらヤミツキになること間違いなし!寄ってって〜!」
「こっちは色とりどりのオードブルがあるよ〜!沢山食べてって〜!」
クラス対抗戦・・・というような、目に見えない仁義無き戦いが始まった。
和夜は、朝の準備のみの助っ人だったので、己のやるべき仕事は果たした。
つまり、暇人となってしまったわけだ。
折角なので、いろいろな所を見て回ろうか?と思い、
エプロン・バンダナを外して飲食店兼教室を出ようとした時、初めて気付いた。
さっきよりも人数が増えている・・それも倍近く・・?
作るのに夢中で周りを見ていなかったが、とんでもない人数だ。
椅子と机を用意していた筈だが・・・いつの間にか撤去されており、
もっと沢山の人が食べれるようにとスペースを広くしたらしい。
「それにしても人数が多いな・・?」
「あ。和夜,お疲れ様〜。人数が多いのは・・あの2人のおかげと言っても過言じゃないわね。」
「あの2人・・?」
焼きそばを作りながら話しかけてきた女子は、あとで感謝しなくちゃね、と満面の笑みを浮かべている。
この人数を見れば誰だって嬉しいだろう。店が大繁盛するということは一番難しい。
だが、その難しさを余裕で乗り越えて大儲け。
店側は、もはや笑うしかない。
教室の外で呼びかけをしている2人が活躍していると聞き、その2人の様子を見に行った。
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