アンドロイドラヴァー

アンドロイドラヴァー -第六話目-

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昨日と同じような朝を迎えた和夜。奈帆の家が影となってしまって、朝陽という元気の源は遮断されてしまっている。
そのおかげで、前よりも薄暗い雰囲気の部屋と化した。何とも寝起きの悪い朝だ。
「これでもカーテン全開にしてんだけどな・・・。」
カーテンレースも全て開け放っているのだが、入ってくる光は極僅か。
柱の隙間から漏れている光をもらっている,という感じだ。
・・さて。制服に着替えてから隣の家,つまり奈帆の家へと移動する。
奈帆の面倒を見るということで、朝食も作ってやっている。
そのため、作る本人,和夜も奈帆の家で朝食を取ることになる。
朝は毎日忙しい。本当は人の面倒を見てやれる程の余裕は・・・全くない。
全くないと思いつつも、奈帆の家に行って朝食をきちんと作った。
食卓のテーブルへ、お味噌汁・ご飯・漬物・焼き魚など・・・次から次へと運ぶ。
もう既に、奈帆と海麻は椅子に座っており、箸を構えて待っていた。
海麻というのは、アンドロイド専門医。つまり奈帆の健康管理人といった感じだ。
海麻は俺の家に住み込んでいる。全く迷惑極まりない話だ。
だが、こんなにも美味しそうに食べてくれる姿を見ると、やはり嬉しい。
「和夜。もう一杯盛ってくれるか?」
「あぁ,食えるだけ食ってけよ?」
もう一杯,おかわりが欲しいと言われると・・作る本人は嬉しくて堪らない。
お前の飯はクソ不味い、と海麻は言うだろうと思っていたので、もう今後一切作ってやらないと言ってやろうとしたが・・・
素直に、意外に上手い物を作るじゃないか・・?と、なんと海麻からお褒めの言葉を頂いた。
それには本当に驚いたが、そう言われたこともあってヤル気というものが増した。
やっぱり、誰かと会話しながら食べるのは良いものだな・・と、どこか虚しさを感じたが,幸せな気分も感じた。
食べ終わった食器は、学校から帰ってから片付けるとして・・・もうそろそろ家を出る時間だ。
焦ることなく登校できるというのは、とても気が楽で嬉しいことだ。
前とは一変した時間の割り振り。まだ数日しか経っていないので、完璧慣れたとは言えないが・・大分この生活リズムに慣れつつあった。
歩いて登校。そして、本鈴までには余分に残っているという時間。数日前とは真逆の変わりようだ。
「あ、今日も早く来てるね?一週間で果てるだろうと思っていた私の勘は外れた・・か。」
「悪かったな?俺は一週間で果てるつもりはない。」
席に座った途端に話しかけてきた貝塚。どうやら朝に和夜が居るということが珍しいらしく、ここ毎日よく話しかけてくる。
「そんなことより・・聞いた聞いた?今日も転校生が来るんだって!」
どんな子が来るか楽しみ、とハシャギながら話す貝塚は、とても目が輝いていた。よほど嬉しいようだ。
「奈っ・・・篠宮に続いてか?」
「?そうみたいだよ?」
・・危ない。学校内では奈帆・・ではく、この間決めた名字の篠宮と呼ぶようにしているんだった。
貝塚は最初に詰まらせた和夜の言葉を気にしていたが、質問するほどのものではないと思い、何も聞かずに会話を続けた。
話している間の時間というのは、ふと気がつくと,ものすごく時間が進んでいる。
勉強をしている時など、早く授業よ終われ・・と思っている時とは大違いだ。
誰かが時計針を動かしたんじゃないかと思う程。娯楽の時間というのは本当に一瞬にすぎない。
いつも通りの時間に本鈴は校内に響き渡り、貝塚も自分の席に戻った。
一週間前、奈帆が転入してきた時と同じように、先生ともう一人,転校生が並んで教室内に入ってきた。
「ハイ皆さん,お静かに。今日は転校生の紹介をします。」
この転校生、どこかで見たような・・?一体どこで見かけたんだと記憶を遡(さかのぼ)る・・・。
そういえば昨日・・・買い物するときにみた・・スルメの子・・・・・?
よく見れば見るほど、スルメを頬張っていたあの姿が思い出される。やはりスルメ少女に違いない。
「初めまして。神野かんの なつといいます。どうぞ宜しくお願いします。」
淡々と話すスルメ少女・・神野という名前だったのか・・・・。
一言一言、礼儀正しく自己紹介した後、先生に指定された席へ向かい座った。
その姿は凛々しいというか・・・とても清潔感溢れるイメージだ。
透き通るような青い髪が印象強い。身長が低いという所も印象的と言えるだろう。
結ばれていない青髪はサラサラとしていて・・・・・おそらく、そういうところから清潔感というものを感じるのだろう。
一学期や二学期の始まりに転校して来たわけではないので・・神野の場合も編入生と言える。
奈帆も途中から入ってきたので編入生と言えるのだ。
なかなか居ない編入生が今学期で2人,しかもこのクラスだけに・・・。
他のクラスに比べて人数が少ないというのが理由なのだろうが、なんとも奇妙な感じがしてならなかった。
そんな違和感がありつつも、時間というものは止まる事無く進んでいった・・・。


お昼時。この時間になると、集中力が一気に抜けて欠伸あくびなど出てしまう。
弁当箱を鞄から取り出し、食べたいところへ移動する。
この学校は、必ず教室で食べるという規則はない。
自分の食べたいなと思う場所へ移動して食事をして良いことになっている。
勉強で疲れた頭などを休めるなど、気分転換というのも含まれているんだとか。
和夜は、いつも同じ場所で食べているわけではない。
教室ではなく、別の場所で食べている。
気分転換なのだから、それは個人の自由である。
そう思う和夜は、弁当箱を片手に,今日も良い場所を探して歩き回っていた。
いろいろな所に目線を移してはみたが・・・今日は室内で食べるという気分ではなかったので裏庭の方へ行ってみた。

この学校の裏庭は、用務員さんが気に入っているのか何なのか、毎月毎月雰囲気が変わっている。
先月は薔薇の花でいっぱいだったが、今月は秋を感じさせるコスモスでいっぱいだった。
蕾のものもあれば、一枚一枚,花弁が大きく咲き開いているものもあって、いつも楽しませてくれる。
決まった場所で食べていないとクラスの奴らには言っているが・・・大体は裏庭で食べる事が多いのかもしれない。
それはもちろん、毎日違った風景を楽しめる花を,一人で眺めながら食べることが出来るという利点があるからだ。
中学にもなると、小学生に比べて外に出て遊ぶという人たちは少なくなった。
なので、お昼もわざわざ外で食べるということはしないらしい。
だから教室内はガヤガヤとうるさい。
他のクラスの奴らも集まってきたりするので、お昼時の教室は嫌いだ。
コスモスが満開に咲いている所へ行く途中、木の陰で誰かが話していることに気がついた。
普通なら、別に誰が話していようが構わずに通り過ぎてしまうのだが、どうやら聞き覚えのある声だった為,足はピタリと止まってしまった。
「――…・・・どうして・・・・・・」
「何が・・・・・・」
2つの声・・それは、今日転入してきた神野と海麻だった。
何で学校に海麻が居るんだ?という疑問もあったが、なぜあの2人で話してるんだ?という疑問の方が大きかった。
それに・・・海麻は神野のことを知っているのか・・?
一気に出てきた疑問に戸惑う和夜は、2人の話に耳を傾け、盗み聞く体勢となった。
「さっきから答えになってない・・!なんで奈帆と同じクラス・・・」
「俺もさっきから言っているだろう?お前は奈帆と一緒に居るべきだと。」
「だから答えになってない!別にアンドロイド同士で一緒に居なくちゃいけないとか、そういうのは無い・・・・。」
一体何の話をしているのか、詳しいことはわからないが・・・・神野、今アンドロイド同士と言った気がしたが・・?
それは、神野もアンドロイドだということを言っているのか。奈帆と同じクラスだから・・アンドロイド同士・・・と言っているのか?
和夜はその事実に呆気に取られ、思わず手の力を抜いてしまい、弁当箱は地面に落下。
バコンッという鈍い落下音は、神野・海麻の耳に届いた。
バッと一瞬にして音の方へ向き、和夜が居たということに気がついた。
和夜は驚愕してしまい、海麻と目線が合っても目を見開いたままだった。
数回瞬きするが、今聞いた話、神野がアンドロイドだという話は本当だと確信した。
「和夜・・?お前・・・まさか今の話・・聞いて・・・・?」
海麻も和夜と同じように驚いていた。だが、その隣にいた神野の表情は真っ青だった。
自分が奈帆と同じ、アンドロイドだということが見ず知らずの人物に聞かれてしまったということを後悔しているのだろう。
神野はその場から思い切り駆け出し、和夜と海麻を避けるようにして去っていった。
「・・・夏希には俺から説明しておく。誰だって、自分の秘密を他人に知られたら驚くもんだ。気にするなよ?」
「・・・あぁ・・。」
これが、海麻に出来る精一杯の気遣い。
決して優しく言っているようには聞こえないが、一応気遣っているようだ。
ハッキリとした返答をすることが出来なかった和夜だが、海麻も自分がやった気遣いに和夜が気付いたということはわかったようだ。
和夜は落とした弁当箱を拾い上げ、本来行くべき場所であった,満開に咲いたコスモスがある所へ足を進めた・・・。

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