アンドロイドラヴァー

アンドロイドラヴァー -第三話目-

モドル | ススム | モクジ
「・・・ったく、こんなに話を遠回しにするつもりはなかったんだが・・・。」
「もうわかったよ・・・。俺が悪いんだろ?話を逸らしてしまってすみませんでした。」
話を逸らしたのは白衣野郎だろう・・・。
そう思う和夜は、自分は決して悪くないと 心の中で断言していた。
「これからは手っ取り早く行かせてもらうからな?」
「だったら最初からそうして欲しいよなぁ〜・・・。」
思わず心の中の言葉が口に出てしまったらしく、白衣野郎はキッと和夜を睨みつけてくる。
「何か言ったか?クソガキ??」
「いーゃ。何でも無いでーす。異議なーし。」
「・・・俺が今から言う問題に答えてみろ。馬鹿なクソガキに解けるかわからんが・・・?」
「なっ・・・・!?」
白衣野郎は人を馬鹿にしている。
そして、上の方から見下しているような気がする。
やはり白衣野郎が話を逸らす原点だろうなと和夜は確信した。
「こっ・・・答えてやろうじゃん?んで、何だよ?」
「おっ?自信満々というやつか・・・。じゃぁ、傷口を見たというお前だからこそ答えられる、サービス問題を出してやろう。」
普通、サービス問題というのは簡単な問題のことをいう。
だが、この白衣野郎の言うことはどうなのだろうか・・・?
簡単と言っておきながらも、本当は頭を抱える程の 難しい難問を出してきそうな気さえする。
「そんなに難しく考えなくて良いからな?・・・では問題。奈帆は人間か、それとも・・・」
「あ〜ハイハイ!そんなのは簡単だ。答えはロボットだろ?」
「ぶっ・・・・・・!」
お腹を抱えてながらも、噴出して笑った白衣野郎。
笑いを堪えきれなかったようだ。
傷口から見て、あれは人間ではない。
機械ということからロボットだと推測される。
これ以外の答えは存在しないと思って答えた和夜だったが・・・間違っているのだろうか?
「くっくっく・・・・あ〜すまん・・・・・・。けほっけほっ・・・あぁ、ホンットにクソガキは馬鹿だなぁ?・・・まぁ、大体そう答えるだろうと,
予想はしてたんだが・・・まさか本当に答えるとは・・・可愛い奴だなぁ?」
「え・・・違う・・・・・・のか?え・・・・・?」
傷口が機械だった筈・・・。ロボット以外の何者でもないだろう・・?
和夜は、白衣野郎の言った“可愛い奴”という言葉にムッと腹を立てた。
ロボットという答えが違うと言うなら何なのだろうか・・?
和夜は自分にある限りの知識を寄せ集めた。
「まさか・・・・・人間・・・・・・・・・・・なのか?」
「くっ・・・・!」
今度は先程以上に大爆笑している白衣野郎。
どうやら答えが違うらしい・・。
「・・・もう本当にお前は・・・・・くっく・・・。馬鹿さ加減はメガトン級だなぁ?」
「じゃぁ何なんだよ!?遠回しにしたくないんだろ!?」
「・・・そうだったな。・・・では正解を。正解は”アンドロイド”だ。決してロボットではないからな?」
「・・・あどろん??」
「・・・アンドロイドだ。」
アンドロイド、それはロボットとも言えるのではなかっただろうか?
そう一瞬思った和夜は、白衣野郎へ目線を向ける。
「ちなみに奈帆は、高性能型アンドロイドだ。」
「・・・あのーさ?アンドロイドとロボットって違うのか?それに高性能って・・・」
「いちいち説明しろと?・・・さっき、遠回しにするなと言ったのは誰だったっけなぁ?ん?」
はぁ・・・と軽く溜息を漏らした白衣野郎は、本当に面倒臭そうな表情をしている。
「・・・俺、お前の言う通り馬鹿なクソガキだからさぁ〜?」
「こんなところで当たり前なことを認められても困るが・・・・まぁ良い。特別に教えてやる。」
相変わらず口が悪い奴だが、実際 和夜はアンドロイドやロボット系についての知識が全く無い。
白衣野郎のいうことを頷いて聞くしかなかった。
「ロボットというのは、俺ら人間の言うことを必ず聞かなくてはならない。そして人間のことを敬い、身を守らねばならない。悪く言えば、奴隷のような存在だな。そして”ロボット三原則”というものに縛られている。まぁ簡単に言えばロボットってのはこんなところだ。」
「ロボットが奴隷なら・・・俺らが御主人ってことになるのか?ってことは、いうことを聞いてくれる良い奴がロボットって感じなんだな。」
「まぁ、ロボットが全て良い奴とは限らないがな。その三原則を当たり前のように破り、人間を襲うロボットも居る。つまり、自分の意思をコントロール出来ないロボットも居るといことだ。・・・まだお前には難しいか?なるべく解りやすく言ってやってるんだが?」
「・・・うっせぇ・・・・。」
なぜだろうか?白衣野郎がマトモに見える。
真面目なこと言っているからだろうか?
ロボット三原則とは・・・
第一条『ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。』
第二条『ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。』
第三条『ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない。』
これがロボット三原則・・・通称“ロボット工学三原則”と呼ばれているものだという。
このときだけは、白衣野郎のことを馬鹿にすることも、口答えすることさえ出来なかった。
「フッ・・・。声が小さくなってるぞ?だが、聞こうとしている態度は感心する。欠伸あくびをしないでよく聞けるな・・・・。」
「たまたまだよ・・・。」
「んじゃぁ、アンドロイドの方も簡単に教えといてやる。というより、こっちの方をよく頭に入れておけ。」
「??おう・・・・?」
聞いているだけでも感謝して欲しいくらいだ と、和夜は細々とした声で呟いた。
頭に入れておけという言葉も、あまり関心しない言葉だと思いながらも,しっかり聞いていた。
「アンドロイドは人造人間と呼ばれる通り,ロボットよりもかなり人間に近い奴だ。高性能型は、一般のアンドロイドよりもずっと人間に近い。今のところ、最も人間に近いとされる機械は、高性能型アンドロイドと言われている程だからな。」
「それが・・・さっきの女性,奈帆って子なのか。」
「そーいうことだ。」
人間に最も近い機械、高性能型アンドロイド・・・・・。
とは言われたものの、実際に一般型のアンドロイドさえみたことがない和夜は、あまりよく理解出来なかった。
“高性能”という言葉を聞く限り、とてもすごいものだろうという予測しかつかない。
「そこで、傷口を見てしまったお前に頼みがあるんだが・・・」
「あのさ・・・人にお願いする時の常識って知らないのか・・・?人に頼む時に、“お前”はないだろ?」
今まで、呼ばれている名前に不満を持ち続けていた和夜は、白衣野郎に本音をぶつける。
「ん?じゃぁクソガキ。」
「違ぇよ!ちゃんと名前で呼べって言ってんだよ!こんの白衣野郎がッ!」
「と言われても、お前の名前なんて知らな・・・って、今なんて言った?」
「あ・・・・・・・」
言ってはいけない本音までもが口から出てしまった。
心の中で呟いていた“白衣野郎”という呼び名・・・それを本人の前で堂々と言ってしまったのだ。
確実に今、白衣野郎は反応した。
「ほーぅ・・・。人に名前を名乗ってもいない奴が、名前で呼べと無茶苦茶なことを言ったかと思えば・・・勝手に人のあだ名を付けたとは
良い度胸だな?ん?」
「だっだからさ!お前とか、クソガキって呼ばれたくなかったから、つい・・・・」
「では、さっきのあだ名もノリで決めた、ということか・・・?ふーん・・・・。」
やはり気にしている・・・。そして完全に怒りつつある。
あだ名が気に食わなかったということだろうか?
なんで“白衣野郎”と口にしてしまったのだろうかと後悔していた。
今更・・・という感じだが。
ドアに寄りかかっていた白衣野郎が、ベッドに縮こまっていた和夜の方に静かに歩み寄ってくる。
足音がない所為か、恐怖感がジリジリと感じられた。
背筋に悪寒が走り、ベッドから動けなくなっていた。
「まぁ良い・・・。さっき言っていたあだ名の方は聞き流しといてやる。感謝しろよ?」
「あ・・・あぁ・・・・。」
ベッドの上に手を置き、ギシッときしんだ音が鳴り,その次は殴られるのかと思ったが案外ストレートに終わった。
これが白衣野郎にとっての優しさというものなのだろうか・・・・?
「じゃぁ名前は?お前だとか、クソガキだとか呼ばれたくないんだろ?」
高野こうの 和夜かずや草稜そうりょう中学の3年だ。」
「・・・名前を聞いただけなんだから、いちいち自己紹介しなくても良いだろ?それに、見ず知らずの奴に、そんな情報を与えるようなことをしてどうするんだ?」
「んなの、お前だから・・・ッ・・・・・・!?」
白衣野郎は、和夜の口をムリヤリ手で塞いだ。
白衣野郎の行動全てが全く読めない・・・一体何がしたいのだろうか。
「もちろん、和夜が言われたくないものは,他の奴だって言われたくないワケだ。だから、お前って言うのはやめろよ?あと、さっきの言ってたヤツな。」
「・・・やっぱり気にしてたんだな・・・。」
「・・・俺の名は“皐月さつき かい“だ。海麻で構わない。」
「・・それだけ?まだ何かあるだろ?人に頼みごとするんだから、もう少しくらい正体明かしても良いんじゃないのか?」
少しは互いに理解し合うというのも大事なことだと思う・・・。
そう言う和夜に海麻は納得する。
「・・・俺は、アンドロイド専門の医者だ。そして、ここの病院の医院長だ。今は、それくらいで十分だろ?」
初対面ということもあるが 全く素性が読めない。
悪い奴じゃないことは確かだと思われる。
海麻は先程アンドロイド専門の医者だと言っていた。
製作者ではない・・・ということだろうか?
「海麻って・・・製作者じゃないのか?医者って・・・?」
「あぁ・・・。製作者は他に居る。だが、まだ会わなくてもいいだろう・・・。」
意味深に呟く海麻の言葉が妙に気になった和夜だったが、自分には到底無関係だろうと思い、聞かなかったことにした。
「??誰も会いたいなんて言ってないけど?それにおそらく、会う機会なんて無いだろうし。んで、頼みって?」
「・・・さっき話していた奈帆、居るだろ?」
「?あぁ・・・・?」
眼を疑うべき海麻の行動。あの海麻がかしこまって真剣に頼んでいる。
あまり良い頼みごとではないような気がする。
今までの姿を見て、こんなにも真剣な姿とを比べるとよく分かる。
「いや,奈帆は和夜と同じ中3の子なんだけどな?今日初めてココに来たわけだ。もちろん、学校にも行ったことない。不安だらけで心配なんだ。」
「・・・だから?」
「そんで、和夜の家の隣、あそこ空地だっただろ?そこに奈帆の家が建って、和夜と同じ草稜中学校に登校することになっているんだが・・・。」
「だからなんだよ?」
よく話の内容が見えてこない。一体何を頼みたくて、何をしたいのだろうか?
「だからな・・・?面倒見てやっ・・・・」
「誰がやるか!つーか家建てるっていつの話だよ!?」
「ん?明日。」
「・・・からかってんのか?」
建築はそんな短時間で出来る筈がない。
明日とは言っても、今はもう既に夕方。
つまり明日ということは半日という時間しかないわけだ。
だからと言って、一ヶ月で出来る筈もない。
海麻は、和夜の反応が見たくて冗談を言っているのだろう・・・。
そう和夜自身,思っていた。
「・・・からかってるつもりはなかったんだが・・・やっぱりダメか?」
「だーめーだっ!」
「・・・ふーん・・。奈帆の秘密を知っといて、なーんにも加担してくれないのか。あんだけ人に説明させといて、アンドロイドなんて知りません。関係ありませんから。なーんて言い逃れるのか?へぇー・・・?」
「う・・・。それは・・・・」
「では、アンドロイド知人者の権利金として、112億3965万9840円を払ってもらおうか?」
「・・・はぁっ?」
これも全て、からかわれているのだろうか?
聞いたこともない桁がズラリと、それも112億という何とも微妙な数字である。
その所為でとてもリアルに聞こえてしまう。
だが、そんな金額,払える筈も無い。
「言っておくが、奈帆の面倒を見ないということは、アンドロイドに関しての極秘情報を知っている,アンドロイド知人者として、この値段を払ってもらうからな?」
「んな無茶苦茶なっ!!」
「奈帆の学校生活を見守り、身の回りの整備をするだけで,この値段を払わなくて済むんだ。容易なことだろう?」
よくよく考えてみれば、これは単にからかわれているだけだ。
全てにおいて非現実的過ぎる。
そう思う和夜は、海麻の冗談だろうと一人で頷く。
だが、もしここで断ったことによって、本当に あの金額を払う破目になるのは困る。
ここは、まず了解しておくのが賢いやり方だろうと決断した。
「あぁ!別に構わないぜ?一応、料理だって作れるしさ。」
「ほう?それは楽しみだな?では、これからも、末永くお付き合いを頼むよ。和夜?」
「おぅ!」
このときまで和夜は、全く気にせず返事を適当に返し,深く考えていなかった。
家が半日で建つことなど有り得ない。非現実的過ぎる・・・。そう思っていた。
だが、俺の予想は大きく外れてしまい、長―・・・い悪夢が始まるということを、この時はまだ、知る由も無かった・・・・。
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