アンドロイドラヴァー

アンドロイドラヴァー 第三章『友情と愛情の相違』 -第十一話目-

モドル | ススム | モクジ
いつの間にか、着々と話は進められていた。
それは一体、いつの話だろうか?と聞きたいくらいだ。
いつからか分からないが、奈帆がなんと・・彼氏彼女という関係にまで発展していたのだ。
奈帆は確かに人気者だ。だが、なぜか皆,告白というものをしない。
なぜなのか回りの男子らに聞いてみると、それは奈帆と自分がつり合っていない。というのが理由らしい。
なので、奈帆は今回初めて告白されたというわけだ。
告白してきた男は、どうせ駄目だろうという気持ちで告白したらしいが・・奈帆は間髪入れずに了解したらしい。
もちろん、その告白した男は大喜びで,表情も浮かれきっている面持ちだとか。
とても純粋で自分に正直な優しい人。
という人が彼氏になって良かったと、奈帆本人も喜んでいる。
この恋愛は上手く行きそうだと、和夜,静香,萱,夏希は話していた。
前は5人で行動を共にしていたが、今は休み時間や話す時でさえ4人で行動することになった。
奈帆は、その彼氏と一緒に過ごしているらしい。
そのカップルの話は校内で噂となり、有名になってしまった。
人と目が合う度に、ヒューヒューと口笛を吹かれるなど、恋愛というのは恥ずかしいものなんだねと奈帆は話していた。
これで奈帆は、恋愛というものを知ったわけだ。
こういう恋愛関係に関しては、学校もなかなか良い所と言えるのかもしれない。
急に話が進んでいて驚いたが、両者が幸せならそれで良い。
和夜たちはそう心から思っていた。
奈帆のことを・・・心の奥底から祝福していた。
「今頃どうしてるのかなぁ〜?一緒にお昼、食べてるのかなぁ〜?」
「静香ちゃん、ソワソワし過ぎ。あの2人なら上手く行ってるって。」
静香と夏希は、弁当箱片手に,奈帆の恋話で盛り上がっていた。
「女の子って、やっぱりそういう恋愛系に関しては敏感だよね。」
「?そうなのか?・・・俺はあまり興味ないけどな・・。」
萱と和夜は、その2人の会話を第三者という目線で眺めていた。
夏希・静香は話すことに夢中で食べることを忘れ、萱・和夜は食べることに夢中で殆ど話していない。
「・・大丈夫。奈帆は良い子だから、相手の男は奈帆を捨てない。」
そう口にした夏希の言葉を聞いて、静香はようやく箸を持って食べることに集中した・・。



「奈帆ちゃんは、俺のどの辺が好きになったの?」
「・・え?」
急な質問に驚く奈帆。
ここは綺麗に花が咲く裏庭。
毎月 用務員の人が花を変えているんだと、和夜から教えてもらった。
確かに、ほのかに香る花の香りは貴重なものだろう。
気分も、自然と晴れて来る。そんな感じが微かにする。
「・・・じゃぁ、つとむくんは私のどこが好きになったの?」
「それはもちろん、全部だよ。」
にっこりと微笑んで、すんなりと答えた。
全部好きになった・・・。なんて便利な言葉だろうか。
それに、よく聞く言葉とも言える。
本当にこの人は、私のことが好きなのだろうか・・・?と不安にさせる言葉でもある。
現に今、全部が好きと言われて不安になっている自分が居ることに気付く。
「そっか・・。うん、私も勉くんのこと、全部好きだよ・・?」
そんな何とも言えない言葉を交わしながら笑い合い、2人は仲良く食事をした・・・。


***


お昼時だった時間は既に過ぎ去り、今の時間は放課後である。
グラウンドでは、陸上部や野球部、サッカー部などの運動部が,
声を張り上げて今度の試合に向けて練習をしている。
そんな中、校舎内はシーンと静まり返っている。
静かな廊下に二つの足音がパタパタと、ある所へと向かっている。
「すみません、失礼致します。」
見た目はとても柄の悪そうな男2人が、コンコンと2回ドアをノックし,礼儀正しい言葉遣いで中に居る人の返事を待っている。
「どうぞ。御用があるなら入りなさい。」
中から聞こえた返事の後に、ガチャッとドアを開けて男2人は入っていった。
男2人が入っていった場所、看板には“生徒会室”という文字があった。
中から聞こえた声は、おそらく生徒会長なのだろう。
男2人は入った途端、一礼して挨拶をする。
その先には、立派な机の上に乗せられた一台のパソコンと,山積みの書類,そして・・凛とした表情で悠々と椅子に座る生徒会長が居た。
「お忙しい中すみません。・・生徒会長には話すべきだと思い、このような時間に参りました。」
「・・私に話すべきこと・・・?その用件とは?」
「はい・・。実は先日、信じ難いことを耳にしまして・・・。」
この2人、先日 和夜と萱が話していた“奈帆と夏希はアンドロイドだ”という話を後ろから聞いてしまった輩である。
和夜と萱の話していた内容を全て生徒会長に話した男は、用件が済んだのなら速やかに出て行きなさい。
と生徒会長に指示され、一礼して出て行った。
「・・・この話、本当の話か・・否か・・・・・。」
生徒会長は明日、他の生徒にも聞いてみることにしようと決め、机の上に山積みとなった書類へと目を通していった・・・・。

***


ざわざわと、校舎内全てが騒がしいように感じる今日この頃。
いつもは、ただただうるさいと感じるような騒がしさだが・・・なぜか今日は微妙に違う。
和夜と静香と萱と夏希、この4人は毎朝一緒に登校してくる。
確かに、最初はものすごく男子たちに騒がれたが、今になっては既に慣れていることだろう。
特に変わったことはない。そう思うのだが・・・最初のころのような、周りの人たちの視線を感じる。
何か可笑しなところがあるのだろうか?
疑問に思いながらも教室に向かう4人は、フッと気になる話が耳に入った。
「ねぇねぇ聞いた?あの夏希って子と奈帆って子。人間じゃないんだってよ〜?」
「聞いた聞いたぁ〜。偽装人間って奴でしょ?そんな嘘、誰も信じないよねぇ〜。」
夏希は思わずピタリと足を止め、その話をしていた女子の方へ視線を向ける。
その視線に気付いた女子たちは、バラバラに散らばって何処かへと去って行った。
「・・・どういうこと?」
ボソッと口にした夏希は周りを見渡す。
知っている人から知らない人まで、全員と目が合ってしまった。
つまり、今女子の話していたこと・・・夏希と奈帆がアンドロイドだということを・・・皆知ってしまっているということだ。
同じクラスの女子たちは、嘘だよね・・?と怯えた目をして聞いてくる。
そのとき夏希は、コクリと頷くことしか出来なかった。
なぜバレている・・?和夜や萱、静香ちゃんがバラした・・?
そんな,仲間を疑うようなことばかりが、夏希の脳裏を駆け巡っていた・・・。





屋上へと続く階段の踊り場。目の前にある扉を開けば屋上,外に出る事が出来るという最上階。
そこに、奈帆とその彼氏,勉が向かい合う格好で佇んでいた。
「奈帆・・・。あの噂は本当なの?」
恐る恐る、震えた声で聞く勉は、嘘だろ・・?と追い詰めてくる。
「・・・何の話?」
「トボけんなよっ!」
一喝する勉は、必死だった。
追い詰めているのは分かっているが、事実が知りたい・・・。
ただそれだけだった。
「・・じゃぁ勉は・・・・私が何だと思うの・・?」
「・・・質問に答えてくれ。まだ・・・俺の質問は終わってない・・ッ!」
静寂な沈黙は一瞬ではなく、少し長く感じる程度まで続いた。
奈帆は、この人なら受け入れてくれるだろうか・・?
と、どこか心の奥底で,勉のことを信じていた。
もし・・・自分のことを、ちゃんと知ってくれているのなら・・。
そう思えば思うほど、事実を話してしまおうかという気が起こってくる。
今の奈帆に、マイナス思考,ネガティブな考えというモノは・・・一切無かった。
もし、受け入れてくれたのなら・・・。
「私は・・・・・っ・・・・私は・・アンドロイド・・・・。」
グッと言葉に詰まり、重要な部分しか言えなかった。
ハッキリと言おうと思っていたが・・やはり、少しだけ気の迷いがあった。
相手に・・・勉に伝わっただろうか・・?と、深呼吸をし,ドクドクと音高くなる心臓を静まらせた。
「アンドロイド・・・?本当に?」
「うん・・・。私、アンドロイドなの・・・。でも、今まで通り・・・」
「・・じゃぁ、今までのは遊び・・だったんだ?」
信じられない言葉が返ってきた。奈帆は勉を見開いた目で凝視した。
その勉の表情は、愕然とした顔で目を見開いていた。
「え・・?遊び・・・って、そんなことないよっ!何でそんなこと言・・」
「アンドロイドにはっ・・・アンドロイドには感情が無いんだろッ?」
「・・えっ・・・・?」
一番聞きたくなかった言葉。それが、信じていた勉の口から発せられた。
驚きと絶望感によって、身体がゆらりと一瞬揺れたが、
感情が無いと思われたままなのは嫌だと思い、グっと足に力を入れて立ち直った。
奈帆と勉のやり取りは、最上階から1階まで、全ての階の人たちが見ていた。
吹き抜け式の造りになっている この校舎で、大声を出したら大体の人たちが気付くだろう。
そして、何事だと思って見上げれば、意外にその修羅場が窺えてしまうのである。
奈帆の言った事実・・つまりそれは、ほぼ全校の人たちの耳に入ってしまったということだ。
「そうか・・・単に彼氏が欲しかっただけか・・。はは・・馬鹿だな俺も・・・。」
そんなことに気付かなかったなんて馬鹿だなと、何度も何度も繰り返す勉の目尻からは、涙が流れ落ちていた。
「違うよ!本当に・・勉のことが・・・・」
「・・やめろよ・・・そういう大嘘 言うの。聞いてるこっちが虚しくなるッ・・・。」
「そんな・・こと・・・・。」
こういうとき、一体なんて言ったら良いのだろう?
そのことばかり考えていた奈帆は、勉の顔を見る事が出来ず、俯いてしまった。
勉は、そんな奈帆を見て、自分はフラれたんだということに怒りを感じ、懐へと手を伸ばす。
奈帆は、何と言うべきなのだろうかと考えていた。一体どうすれば・・と。
大声で叫び合う2人の声は、和夜、静香、萱、夏希の耳までも届いた。
「この声・・・奈帆の声じゃない・・?」
「気のせい・・・じゃないみたいだな?」
階段付近に、ざわざわと人が集まっていた。
一体どうしたんだろうかと思い、その人込みへと近付いたその時、キャァァァァァァ〜〜〜〜ッという甲高い女子の声が校舎内に響いた。
「・・ッ?何だ・・一体どうしたんだッ?」
和夜たちは急いで人込みへ潜り込み、皆の見ている視線の先を見た。
「・・・なッ!?」
それは、誰もが驚くべき光景だった。
奈帆の彼氏、勉の手にはナイフが握られており、奈帆はジリジリと後方へと下がり、追い詰められていた。
勉の懐にあったのは、このナイフだった。気が動転しているようで、勉の目は虚ろになっており、このままでは奈帆が危ない。
和夜は、何としても止めなければと思い、足を動かした、が・・・。
「私、行って来る。」
「え・・ってちょっと待てよ!おいっ!」
呼び止めたが、夏希の方が素早く階段を駆け上っていった。
和夜は唖然としたが、そんなことよりも夏希のスピードに驚いてしまった。
あっという間に2階、3階、4階・・・そして、奈帆たちのいる最上階へと上り着いた。
「なっ・・・なんでお前がココに居るんだ・・ッ?」
「あっ・・夏希ッ?」
奈帆は驚いた表情で夏希の方を見ていた。
間に合って良かったとホッと一息ついた夏希だったが、それも束の間。
勉は、隙が出来たと,ここぞとばかりに奈帆へタックルをして来た。
「・・ッ!奈帆っ!」
勉がタックルして来る前に・・!
そう思った夏希は、奈帆を横に押し退け、勉のタックル,そしてナイフに思いっきり当たってしまった。
「ぐッ・・・!」
スパッと切り裂かれてしまった夏希の右腕からは、大量の血が流れ出た。
痛みと、タックルされた反動によって足がフラフラと,バランスを崩して よろめいた。
「あ・・・ッ!」
ハッと気付いた時には遅かった。
倒れてしまうと思い、夏希は反射的に手を床につこうと
手の平を広げて出したつもりだったが、あるはずの床が・・無かった。
夏希は、タックルされた反動によって、吹き抜けの所から落ちてしまったのだ。
何の障害物に当たることなく、1階までスッと落下していく。
宙に浮いた夏希の身体は、1階から最上階まで、奈帆と勉のやり取りを見ていた人たちは、落ちて行く姿を見た。
一瞬にして1階まで落下した夏希。
落下した衝撃に耐え切れず、ガシャンッと大きな音を立てて、部品がバラバラに散らばっていった。
その姿を、和夜と萱と静香は・・間近で見た。
落ちてくる瞬間も見た。本当にそれは、一瞬のことだった。
転がる頭は、とても生々しく,悲しさが広がる。
夏希の落ちてしまったところから、勉と奈帆は1階を覗き見た。
勉は我に返り、ガクンと膝が折れ,床に倒れこんでしまった。
「俺は・・・俺はぁ・・・・ッ!!」
「な・・・夏希ッ!!」
俺は一体どうしたら良いんだッ?と、狂い叫ぶ勉を置いて、奈帆は1階へと・・夏希の元へと急いで階段を駆け下りた。
「あ・・・あぁ・・・っ・・夏希っ・・・・・・・ッ!」
バラバラに壊れてしまった夏希を見て、奈帆は夏希にしがみ付いて泣き叫んだ。
周りの人々は悲しむどころか、冷めた目で,憐れんだように見ていた。
そんな嫌な雰囲気など無視して、和夜はゆっくりと口を開いた。
「愛は、時に憎しみとなり,恨みへと変わる・・・。奈帆は、それを今回学んだんだ・・。」
「っ・・そんなの・・・・人一人死んでまでっ・・・学びたいなんて思わない・・ッ!」
和夜は、奈帆に気を遣ったつもりだったが、逆に奈帆を傷つける結果となってしまった。
奈帆の叫びは、周りの人々の耳に響く・・・。
人々は、夏希の姿,壊れてバラバラになってしまった姿を見て確信した。
夏希と・・・そして、目の前にいる奈帆もアンドロイドだということ・・・・・。
嘘だと思っていた、信じていた あの噂は,事実だったのだと・・・初めて気付いたのだった・・・。
モドル | ススム | モクジ
Copyright (c) 2006 時雨 彬久 All rights reserved.
 

-Powered by HTML DWARF-

inserted by FC2 system